「大人(経営者)の心得の一つ」

眼の黒い(弁識能力がある)うちにする事。
 気絶ではなく、生きているうちに「自分の意思が無くなる」ことは、必ず来ます。備えは「意思のある」うちにする。昔は親父が認知症になっても知り合いの司法書士に頼んで、親父の意思を代弁して、親父の指示のごとく財産の移転登記が済まされることもたまには有った。だが、今は必ず司法書士が本人の意思を直接、対面して確認することが義務化されている。これを怠ると業法違反だし、登記そのものが無効となる。司法書士は本人の名前や生年月日とかいくつかのことを質問して本人の意思能力を確かめる(難しい言葉で言えば弁識能力という)。アウトであれば、登記はできない。このことは登記だけでなく、全てのことがそうなる。
備えは「弁識能力のある」うちにする。
 皆さんにここで「後見制度」のことを紹介しておこう。
 まず、任意後見人制度がある。
この制度は本人の眼が黒い(意識があり、明瞭な意思が表明できる)うちに、自分の後見人を自分の意思で決めます。自分の財産の管理・処分を自分が指名した後見人に任せることができます。親父に弁識能力(親父に意思能力がなくなる、いわゆる認知症を患う)が無くなったとき以後は、任意後見人が親父の代わりに親父の財産を管理処分します。任意後見人は裁判所が任命した任意後見監督人が監督します。任意後見契約は公証役場に行って公正証書にしておく必要があります。手数料は7万円弱です。ぜひ、経営者は自分の目の黒いうちに自分の意思で自分の信頼できる人(例えば、後継者等)を任意後見人にしておきましょう。
 法定後見人制度は出来るだけ避けよう。
任意後見契約が無いときに、親父の弁識能力が無くなったときは「法定後見制度」の適用となります。
決定的違いは「家庭裁判所」が後見人を決定します。後見人には裁判所が選んだ弁護士等が就任します。弁護士等に報酬の支払いが発生します。親父と推定相続人は利益相反の関係ですから、親父が死ぬまで、つまり相続が発生するまで親父の財産の処分は非常に難しくなります。任意後見制度なら生前に財産の処分についても後見契約書に書いておくことができます。
 備えは「意思のある」うちにする。
遺言書も書いておこう。自分の遺言者を法務局に預けておく制度もできた。眼の黒いうちに遺言制度を理解し、遺言を残そう。家族信託制度もある。この制度は平たく言えば任意後見制度と遺言の組み合わせを信託制度を利用して生前に実行できる。ぜひ、眼の黒いうちに理解し、できれば実行しておこう。税制上の微妙な問題がいくつもあります。弁護士、司法書士のネットワークをもち、任意後見、家族信託、相続税申告と実務経験豊富な「こちら総務部」をぜひご活用ください。
あとがき
 当事務所が任意後見制度を勧めて、公証人役場で任意後見契約を締結された顧客は10名を超えた。家族信託を実行された顧客は2名、遺言も含め、今後、ますます増えていくし、当事務所は眼の黒いうちに必ず経営者が行うべきものとして奨励していく。
 相続税申告のプロとして私が作成した「相続税申告件数」はその数は300を超えた。そのなかには私を可愛がり、ご指導いただいた尊敬する初代、二代目の経営者の相続税申告数がかなりある。
 改めて、この原稿を書きながらその方々のことが脳裏をよぎる。先達たちに、若造の私を丁寧に時には厳しくご指導いただいた。そのことを、あらためてここに先達のみなさまに感謝を申しあげたい。

税理士 四ケ所十郎

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